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時のかけら~統制陶器~

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瀬292の手水鉢

 瀬戸焼には2つの分野がある。昔からの陶器を焼く『本業焼』と有田から技術がもたらされた磁器を焼く『新製焼』とに分かれる。今では本業焼と呼ばれる陶器生産は少なくなりつつあるがその味わいはやはり磁器よりも数段味わい深いといえるのではないだろうか。
 今では数少なくなった瀬戸の本業焼の中から一点を紹介する。

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 鉄絵で描かれているのは草花と蝶。葉をたくさん細かく丁寧に描きこんだため花がわかりづらいのが欠点といえようか。生き物に焦点を当てていますので今回は「蝶」です。
 鉄絵のただ真茶に塗りつぶされているのでどんな蝶を描いたのか判別できません。しかし、ある程度の推測はつきそうです。草花はモンシロチョウを見かける菜の花ではありません。色合い的にも白い蝶ならば線描きでいいはずです。

 黒い部分の多いアゲハチョウやオオムラサキがその候補といえます。オオムラサキの幼虫が食べるエノキを調べてみるととても小さな花でここに描かれているものとは大違いでした。
アゲハチョウは柑橘系の樹木に卵を産みます。これらも花は小さいです。はっきりしません。
 春になり、ふらりふらりと花の香りに誘われて一羽の蝶がやってきた、それをすかさずサッと描いたのでしょうね。

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 うって変わって側面から見たところ。かなり大きな物です。今でいえば洗面器や洗面台の代わりをしていた器物ですのでそれなりの大きさはあります。側面の文様はよくわかりません。

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 高台部には鉄泥が塗られています。安南(現在のベトナム)のやきものにも高台内に鉄泥を塗ったものが知られています。おそらく水漏れなどを起こさないためと思われますが、詳細は不明です。
 高台内の隅に『瀬292』と判読できる凹印の統制番号があります。サイズは直径30.8センチ、高さ12.6センチ。サイズからすると、最大直径の器物といえる。
by richouken04 | 2006-02-24 01:54 | 瀬・セ(愛知県瀬戸市)

戦時下(S15~S21)に焼かれたやきものを中心として


by richouken04