ト8の蓋物
しかし時として少数ながら判断ができないものも存在している。小規模窯業地なのかもしれない。そんなひとつを紹介します。
白地に豪快に描かれた老梅。今まさに開花が始まった瞬間を捉えている。笹の葉や紅梅のつぼみ、花は釉下彩(釉薬の下に焼き付ける絵付け法)でつけられている。花のおしべはゴム印で付けられている。
上と横。花のおしべ以外はすべて手書き。なぜここだけと思ってしまう。
内部は真っ白。釉薬のヒビである貫入(かんにゅう)が見える。陶器にはよく見られるもの。味噌やしょうゆなどが入っていた陶器類はここから白いしおを吹くようになる。
高台の畳付は三方で切られ、高台内には『ト?8』と読める黒呉須印が付けられている。拡大図で見るとほんのちょっとではあるが横線が見えるので『ト』と判断した。サイズは直径16.2センチ、高さ8.5センチ。
さて問題はこれがどこで生産されたものであるかということ。『ト』とすると該当する窯業地は『常滑(とこなめ・愛知県)』、『砥部(とべ・愛媛県)』が大産地。
常滑は火鉢や土管など大きな製品が多く、食器類の生産は朱泥(しゅでい・素焼き)の急須や湯呑がよく知られるだけ。砥部は食器類の生産をしていたものの、磁器が主流。また、統制番号も砥部焼きの資料館の館長さんより『砥1、砥2のみ』と伺っている。(さらに多くなっても4つの番号が使われただけともいわれる)
造りから見ると身(食品を入れる側)は石膏型でろくろ成形しているようだ。土も白く、細かい。ここからは万古焼を想起させる。でも産地記号は違う。蓋につまみも付いていない(万古焼では変形蓋物以外の丸型では蓋につまみが付いている)。もう少し類例が出てくるとより分かってくるものであろう